インフルエンザの予防接種が始まりました。今年は、沖縄で夏の間もインフルエンザが出続けたことや、東南アジアへの旅行者が持ち帰ったケースが多かったことが原因で、東京でも小さいながら8-9月にもインフルエンザの流行がありました。今年は少し早めに予防接種をした方がいいのかもしれません。

 予防接種の目的は、もちろんインフルエンザにかかりにくくすることですが、実は「インフルエンザで死んだり重篤な状態になったりしないようにする」ことが一番の目的です。
 インフルエンザはウイルスによる「風邪」なのですが、致死率が普通の風邪とは桁違いです。インフルエンザそのものと、その後の経過不良によるものを合わせた、つまりインフルエンザがきっかけで亡くなる人は、おおよそ年に10,000人ほどいます。もちろん亡くなるケースは高齢者に偏りますが、普通の風邪とはやはり比べ物になりません。
こうした危険な病気だから、予防接種があるわけです。

 インフルエンザの予防接種を受けてもインフルエンザにかかってしまうことは、残念ながら少なくありません。詳述はしませんが、インフルエンザワクチンは不活化ワクチンで、もともと不完全なものです。しかし先述したように、予防接種の目的は重篤化の予防や致死率の減少にあるので、科学的には評価はその点で下されなければなりません。

 老人施設入居者を対象にしたデータですが、インフルエンザワクチンを接種した場合、接種しなかった場合に比べて、「肺炎やインフルエンザでの入院を半分に減らし、死亡する危険性を80%減らす」ことが示されています。十分に「効いている」のです。当然、元気な若い人でも発症を減らし、かかっても軽く済むわけで、かかったとしてもインフルエンザを普通の風邪レベルに落とすことができるのです。普通の風邪なら、恐れるに足りません。

 ここまでは個人としての接種のメリットについての話でしたが、次に社会全体という目で見てみましょう。

  インフルエンザの予防法は、なるべく人ごみに出ないことや手洗い、マスクですが、まず予防接種を受けておくことです。確かに予防接種で100%防ぐことはできませんが、65歳以下の健常人では発症率を70-90%減少させることがデータで示されています。つまり世の中のほとんどの人が予防接種を受けておけば、インフルエンザの流行は起きないという理屈になります。

 残念ながらワクチンの流通の問題もあって難しい面もあるのですが、少なくともワクチンを打てるのに打たない人を極力減らすことは重要です。小児や高齢者では接種率が高いのですが、その他の世代では決して高いとは言えません。
 色々なデータがありますが、20-60歳台では接種率は30%に満たないようです。これでは流行は防げません。

 そしてこの世代の多くが、毎朝夕、電車に乗って移動します。その中には、朝熱があってインフルエンザかもと思いながらも、とりあえず職場に顔を出そうとする人がいます。
 予防接種を受けずにインフルエンザにかかってしまった人が、予防接種を受けていない人が多くいる空間に長時間滞在する、これこそが流行が拡大する大きな原因です。

 ところがインフルエンザにかかってしまった人が満員電車に乗っていても、周りの人がみんな予防接種を受けていればどうでしょうか。その人のウイルスが広がる可能性は極端に下がります。予防接種を受けることは、自身がインフルエンザにかかる可能性を減らすだけでなく、自らを介して拡散させることを防ぐことにも寄与するのです。

 あなたが予防注射を受けることは、あなたがインフルエンザにかかることを防ぐだけでなく、ほかの誰かがインフルエンザにかかることも防ぎます。その誰かは、アレルギーや病気で予防接種を受けられない人かもしれません。

 One for all, All for one の気持ちで、是非、予防接種を受けてください。