こんな患者さんがクリニックにはよく登場します。
「埼玉県在住、有楽町線で月島まで通勤。昨日の夜から熱と鼻汁が出始め、今朝は38.8度あった。会社に顔を出したが、きついので受診。子供が一昨日インフルエンザAと診断された。インフルエンザの予防接種は受けていない」

 この方の病名は何だと思いますか? おそらく全員正解です。
そしてこの方自身も、おそらく家を出る前に正解にたどり着いているのです。でも出勤してしまうのです。
朝の電車内で何人の人にウイルスを提供したでしょうか。帰りの電車でもまた…。

 前回のこの欄で書いたように、通勤電車に乗っている人のワクチン接種率はかなり低率です。この方の周りにいた人の6-7割の人は防御できません。
しかし、もしこの方の周りにいた人が全員予防接種を打っている奇跡の空間であれば、この人から流行が拡大することは防げます。
これが前回お話しした内容です。

そしてもう一つウイルスの拡散を防ぐ方法は、この方が電車に乗らないことに他なりません。
 インフルエンザに限らず、「移された」という表現をよく耳にしますが、あなた自身は自分が加害者になる行動をとっていないと言い切れますか? 
 災害で交通機関が止まった時、それでも会社に向かおうとする行動を揶揄したり批判したりする声もまたよく聞きます。ただこの行動パターンは、体調不良の時に実に日常的に起きているのです。

具合は悪いけど取り敢えず会社に行ってアリバイを残し、会社の近くのクリニックを受診する、インフルエンザの診断が出れば仕方なく帰る、インフルエンザではないというお墨付きが出れば堂々と仕事する。インフルエンザ陰性とお伝えしたとき、「良かった」とおっしゃる方が多いですが、「重い病気でなくて良かった」のではなく「仕事を休まなくて済むから良かった」の方が多いように思います。  

前回お話ししたように、インフルエンザは普通の風邪とは違いますから、広めないように隔離される期間は必要です。ただ、インフルエンザであろうがなかろうが、高い熱がある場合休むことが必要です。
「インフルエンザじゃないなら出社しろ」とか「普通の風邪では休めない」とか、そういった風土を改める必要があるのです。
強制的に年次休暇を取らせることではなく、「電車が動かないので休みます」「具合が悪いので休みます」という連絡一つで休みが取れる職場環境を作ることこそが、働き方改革の1丁目1番地だと思うのですが、どうでしょうか。

インフルエンザ拡大の片棒を担がないために、通勤電車に乗る人に改めてのお願いです。
① 11月に入ったら、インフルエンザの予防注射を受けて下さい。
② 熱があったり、インフルエンザかもと思うときは、電車に乗る前に自宅の近くで受診してください。