「腹が減っては戦はできぬ」とはよく使われる言い回しです。まず腹ごしらえとか、忙しいから食べられる時に食べておこうとかというのも、日常よくある光景です。ただ、本当に空腹だと戦えないのでしょうか。

 ライオンは空腹を感じた時にしか狩りをしません。満腹の時に獲物となる動物が通りかかっても襲うことはありません。「今のうちに捕まえて後でお腹が空いたら食べよう」という発想はないのです。つまり「腹が減っては戦はできぬ」どころか、「腹が減らなければ戦はしない」のです。

 実は、ライオンに限らず人間も空腹時の方が戦う能力は上がります。
 人間も飢餓の時代を生き抜いてきた遺伝子が今でも主流ですので、飢餓の時には生存本能が働いて集中力や緊張感が増し、体の機能をフルに活動させる覚醒状態になります。また血糖値を上げるためにアドレナリンというホルモンも分泌されます。アドレナリンはお腹が空いたときにイライラする原因の一つでもありますが、精神的な興奮をもたらすので戦闘にはもってこいです。

 一方、胃が食事で満たされると、消化管は活発に活動を始めます。消化管の活動は主に副交感神経の活性化により亢進します。副交感神経が優位ということは、体全体がリラックスモードになるということです。これでは戦えません。
 また、脳を覚醒状態にするオレキシンという物質があり、これが増えると食事摂取量が上がるのですが、食後はバランスをとるためにこのオレキシンが減ります。当然、脳の覚醒状態は下がります。食後に眠くなったり気怠くなったりするのは、これらが原因と言われています。

 このように人の身体は明らかに空腹時の方が戦には向いているのです。
 すると「でも食べないと戦うエネルギー源がないではないか」という声が聞こえてきそうです。これにも反論できる理屈があります(屁理屈ではありません)。

 食べると一時的に血糖値は上がります。しかしこれは血液中の糖が上がっているだけで、力の源にはなりません。力の源は筋肉内に備蓄してある糖分で、これを使い切ると貯め込んである脂肪を分解してエネルギー源が供給されてきます。つまり食べなくても力は出るのです。出ないのは、力ではなくヤル気です。

 前述したように本来空腹時にはヤル気が出るはずなのですが、なぜ出ないのでしょうか。
 それは、脳が常に食べるための「言い訳」を探しているからです。

 我々はライオンと違って、食べようと思えばいつでも食べることができます(お金は要りますが)。それをわかっている脳は、リラックスや快楽を求めて食べる理由をささやいてきます。それに素直に従っているのが、今の我々なのです。
 脳は「空腹では戦えないよ」と言ってきますが、そんなことはありません。その言葉をはねつけることが、食べすぎを防ぐ第一歩です。

マーフィーの法則にこうあります。
「腹が減っては戦はできぬ、と言う奴は、満腹になっても大した仕事はしない」