新型コロナウイルスに右往左往しているうちに、2020年の前半が瞬く間に終わってしまいました。本来なら、今頃はオリンピックに向けて浮かれていたはずなのにと思うと、残念でなりません。

 新型コロナウイルスの影響が今後どうなっていくのかはわかりません。個人的には、このウイルスは人と共存しやすいように変わっていき普通の風邪ウイルスになるのでは、もしかするとすでにそうなりつつあるのではないかと考えているのですが、どうでしょうか。楽観的過ぎるかもしれません。でも、当たっているといいのですが。

 さて、本来ならオリンピックなのですが、本来なら夏風邪が流行る季節でもあります。コロナの話ばかりで忘れてしまいそうですが、夏風邪のウイルスも増えてきてもおかしくはありません。

 夏風邪の代表格は、咽頭結膜熱(プール熱)とヘルパンギーナ、手足口病です。
咽頭結膜熱はアデノウイルス、ヘルパンギーナ、手足口病はエンテロウイルスが原因です。いずれも子どもたちを中心に流行する風邪ですが、大人もかかることがあります。またエンテロウイルスやアデノウイルスは種類がたくさんあるので、個別の名前を持たない「風邪」が大人たちにも広がります。アデノウイルスやエンテロウイルスは、のどだけでなく腸管内でも増えるので、咽頭痛などに加えて下痢などの胃腸症状が出やすいのも特徴です。

 すでにお気付きかと思いますが、夏風邪の原因はほとんどがウイルスです。そう、コロナと同じです。
 ウイルスは生き物ではありません。わかりやすく言うと、遺伝情報が袋に包まれているだけの存在です。生き物は、自分自身の力もしくは同属の他者と共同して個体数を増やしますが、ウイルスは単独で増えることができません。宿主と呼ばれる、自身がその細胞に入り込める生き物の細胞に入って、その細胞に自身のコピーを作ってもらって増えていきます。ドアノブに付いた、人間を宿主とするウイルスは、その場ではいつまで経っても増えることが出来ません。そのまま朽ち果てていくだけです。

 一方宿主の側は、ウイルスが入り込んだ細胞を排除しようとします。その努力の結果が、発熱であったり、のどの痛みであったり、鼻水であったりするわけです。
 ウイルス以外にも、溶連菌やマイコプラズマ、肺炎球菌、食中毒菌(大腸菌やカンピロバクターなど)といった細菌が呼吸器系や消化器系の症状を出しますが、比率的には圧倒的にウイルスが犯人です。ウイルスを体内に侵入させなければ、ほとんど風邪をひくことはないのです。

 新型コロナウイルス(本名はSARS-CoV-2 と言います)は、入り込みやすい細胞が鼻の奥の嗅覚細胞や肺の細胞であるようで、そのため嗅覚障害が出たり、肺炎を起こして重症化しやすかったりという特徴があります。しかしウイルスである以上、体に入ってこなければ問題はありません。

 そのための方策として、手指の消毒や手洗いをすること、人に唾を飛ばさない、また唾を直接浴びないためにマスクやフェイスガードをすること、大声で騒いでウイルスを遠くまで飛ばさないこと、飛んできても届かないようにするためのソーシャル・ディスタンスをとること、ウイルスを追い出すために換気をすることなどが大事だと、散々聞かされたと思います。

 また世の中に広めないために、少しでも症状がある人は外出しないようにしましょうということや、効く薬はなく、ほとんどが数日で自然に治るということも学んだと思います。

 こうした今回コロナで学んだことは、コロナ以外のウイルスにも当てはまることです。コロナだけの予防策、対応策ではありません。インフルエンザなどの冬の風邪にも夏風邪にも有効です。すなわち、こうした予防策をとればインフルエンザの流行も防ぐことが出来るということです。逼迫している医療費の問題を解決する一助にもなります。

 「誤解発言」で騒がれた「症状が出て4日くらいは自宅で様子を見ましょう」というあの指針は、私は的を射たものとして高く評価しています。重症化さえ見逃さなければ、この対応は、コロナ、インフルエンザに限らずすべての風邪に有効です。ほとんどの風邪は、4日もたてば自然に治りますし、他の人への感染力も下がります。

 コロナが流行り始めたころは、指針に沿って律儀に3~4日我慢してくれる方が多かったのですが、このところコロナに対してPCR検査が比較的受けやすくなったこともあってか、熱が出るとすぐに受診する人が増えてきました。
 「インフルエンザでなければ出社しろ」というかねてからの風潮に近いものを感じています。コロナであろうがなかろうが、症状のある人は出歩かない、可能な人はリモートで仕事をする、遊びの予定は我慢するといった原点を今一度思い出して頂きたいと思います。

 そしてそれはコロナが落ち着いた後の日常でも、すべての風邪の流行予防策として生かされ続けて欲しいと思います。